不動産賃貸業で貸主が気になるリスクとして最も多いといわれるのが「空室リスク」といわれています。建物を建築しても「空室」では収益を生みませんし、借入をしていれば返済もできません。
本当に投資していいのか?こんな不安をお持ちの方は多いのではないでしょうか。
不動産賃貸業における運営形態として、リースバック方式(マスターリース、サブリース)といった言葉を聞いたことがあると思います。この記事ではリースバック方式を検討する際の留意点は何かを整理してみました。特に空室リスクをヘッジできるところに魅力がある反面、留意点は何か。その理解をすることが、リスク管理の助けになるはずです。
CFPとして土地活用の企画提案を約30年間行ってきました。リースバックによるトラブル事例が増えてきましたが、仕組みをしっかり理解して、経営しましょう。
マスターリースとサブリースの違い

図1を参照していただくとわかりやすいと思います。
・マスターリース契約は、オーナーと不動産(管理)会社(以下、「不動産会社」という。)との間で締結される契約で、「一括借上げ」のことを言います。建物を不動産会社が一括してオーナーから借上げる契約です。
・サブリース契約は転貸を意味します。オーナーから一括借上げした貸家を転貸することです。エンドユーザーに対しては不動産会社が家主となります。
・マスターリースには2種類があります。
①マスターリース空室保証有り
②マスターリース空室保証無し
言葉が示す通り、不動産会社とエンドユーザーとのサブリース契約で、オーナーに対しては空室の有無に関わらず契約で定められた賃料を支払うのが「空室保証有り」です。空室分の賃料保証が無いものを「空室保証無し」ということです。
事業目的(相続税対策など)や立地特性により保証の有無は原則としてオーナーが選択します。しかし、「空室保証」は不動産会社にとってもリスクがあるため立地によっては不動産会社から保証を拒否されることもあります。
運営会社にかかる規制
最近は、「マスターリース契約」や「サブリース契約」でのトラブルに関するニュースが報道されました。これは、「保証内容」の説明不足から生じるトラブルです。例えば、「空室保証」といっても長期にわたり賃料を固定するわけではありません。「賃料改定条項」や「解約条項」をよく確認の上、契約締結すべきなのですが、一方で不動産業者から十分な説明がなされていない現状に鑑み、規制を課すことになりました。

マスターリース方式のメリット・留意点
賃貸事業を営むオーナーの多くがマスターリース方式選択されるのはなぜでしょうか?そのメリットと留意点を整理してみました。
<メリット>
・不動産会社が「家主」となるので煩雑な賃借人との交渉は殆どない。
・「空室保証」を選択すれば空室リスクを回避できる。
・不動産会社の資金力にもよるが、金融機関から融資が受けやすくなる。
・空室があっても全て賃貸事業経営中とみなされるため相続税対策としてのメリットがある。
<留意点>
・「空室保証」を選択してもマーケットリスクは回避できない。
・不動産会社の選定に注意。
・物件規模によっては経費倒れする。
「空室リスク」は回避できても近隣相場により賃料が下落すれば、賃料改定により減額されることもある。(逆に増額することもある。)また、不動産会社が倒産するとオーナーは後処理で大変なことになるでしょう。したがって、不動産会社の選定には十分な留意が必要となります。
建物維持管理費について
建物維持管理費とは、法定点検や維持管理にかかる費用をいいます。具体的には以下に示すものが代表的な項目です。マスターリース契約とは別建てとなっているケースが大半です。
<法定点検>
・エレベータ点検
・自動火災報知機点検
・直結増圧ポンプ点検
・防火管理者の設置(建物規模による)
<任意事項>
・日常清掃
・定期清掃
・配管洗浄
・外壁洗浄
・その他
不動産賃貸業では経費として処理できますが、エレベータがつくと建物の規模によりますが、概算で20万円/月~25万円/月ほどの負担がかかります。(20所帯から40所帯程度マンション想定)
建築法規により、あまり床面積が消化できな土地や、賃料水準が安いエリアでは、建物設計段階から建物維持管理費を意識しながら規模や階数を検討する必要があります。
最終的な事業収支シミュレーションをした際に採算がとれないのでは事業化が難しくなりますので、建築法規のことも意識しましょう。
まとめ
・「保証有り」を選択しても空室リスクの回避はできてもマーケットリスクは回避できない。
・マスターリース契約と建物維持管理契約は別建てあることが大半。
・採算性のある企画とするためには建物設計時には建築法規と建物維持管理費も意識すること。
以上