事業採算性を決定する大きな要因は建築図面によります。依頼者のオーダーやマーケット、対象不動産の特性を加味して作成する図面がカギで、単純に容積消化だけを検討すれが良いわけではありません。事業収支を意識した設計時術が必要となります。
容積消化検討から始める
これまで敷地調査や建築法規の重要さを記事にしてきましたが、実務的に最も面白く、重要な場面は建築図面を検討する時です。いわゆるボリュームチェックというものです。ボリューム図面検討時の考え方を知ることが、自分で思考錯誤するための条件となります。ポイントは以下の通りです。
・容積フル消化は可能か?
・容積フル消化して採算性はどうか?
・検討可能な事業メニュー比較検討はしたか?
・事業目的を再確認しよう。
見出しで「容積消化から始める」と書きましたが、まず最初はそれでよいと思います。その不動産が持つポテンシャル能力を図るには容積消化した場合に最大で、どの程度の建物が建つかを検討するのです。
しかし、「やっては見たけど、どうにも効率が良くないように思う」といったときに、どう採算性を上げていくかを検討しなければなりません。
施工会社の見積金額を値切っても、根本的問題解決をしていないので、希望する改善は図れないことが多いようです。この希望するというところですが、それが採算性です。
採算性が良くなければ事業化を図る意味がありません。では、どうやって改善案を検討すればよいかという一部の例を以下に示します。
容積消化から視点を変える
下図をご覧ください。よくあるケースだと思います。それほど、高容積ではなく、敷地もそれほど大きくない。
<4階建を3階建に変更>
・日影規制で中高層化して容積消化を
目指すと中途半端な建物になる。
・4階建とすることで杭施工が必要
なケースです。
・3階とすることで地質次第では杭不要
・3階建とすることにより日影対対象外。
・3階なら木造の方が経済的な場合あり。

<塔状建物・駐車場付置義務など>
このような敷地は東京下町の方に多くみられます。
・狭小敷地
・高容積
・商業店舗ニーズあり
A案:容積消化。
但し、中高層条例の駐車場付置義務により
1階がエントランスホールと駐車場のみ。
(採算面でマイナス要因)
B案:駐車場付置義務を回避。
1階にテナント誘致。
※多くの場合、3階建以上かる15戸以上の
賃貸マンションは、中高層条例や指導要綱
により、駐車場付置義務を強いられること
が多い。敷地にゆとりがない場合は1階が
犠牲になりやすい。

容積消化だけに注力するのではなく、逆に容積を捨てて効率化した計画にできれば、事業採算性はよくなることが多い。上図はその一例です。
税務対策観点から図面を検討する
税務上の特例利用や財産分割を優先
したい場合は、敷地分割も検討する。

税制改正でA案のように最上階を自宅した特例利用は、納税者側にとっては条件が厳しくなりました。
・以前はA案でも敷地全体を自宅用地
とカウントされていたが、税制改正
で自宅の比率分の土地が居住用宅地
みなされるようになりました。
・上記のことを考えると、B案の方が
納税者有利に働く特例が使える範囲
が広い場合があります。
・また財産分割や、将来の売却を視野
にいれるのであればB案の方が要望
にあっていると考えられます。
補助金の活用など
最近では介護施設・環境配慮型建物(ZEH,ZEBなど)・木造建築物促進について補助金交付を受けられるケースがある。
補助金交付については、
・申請期間中に手続きを行う。
・建物のスペックに制約がある。
・着工や竣工時期にリミットがある。
・施工会社や設計事務所の評価が一定レベル以上
こういった補助金交付を加味した事業収支を検討することもある。こういった事業は公募であることが多く、都度確認が必要です。
まとめ
1.設計は容積消化に始まるが、
サイズダウンの検討もある。
2.住宅・商業・オフィス・施設
ほか何がオーナー要望に合うか
を考える。
3.上記に加え、立地特性から
提案メニューを複数検討し
比較表にして説明する。
以上